Vol. 1 ヒメバチ科ヒラタヒメバチ亜科 Pimplini族
Tribe Pimplini, Subfamily Pimplinae (Family Ichneumonidae)
2020年5月29日更新 渡辺恭平
族への検索表と種のリストは亜科の紹介をと渡辺(2019)を参照ください。
この族には良く知られたヒメバチが幾つも含まれており、とても身近なヒメバチです。鱗翅目の蛹からよく羽化してくるヒメバチで、幾つかの種は農業環境において天敵として重要な役割を果たしていると考えられています。
国内産の分類は大方片付いており、少なくとも研究者に把握されている以上の未記載種が見つかる可能性は少ないグループでありますので、下記に簡易的な属への検索表を作成しました。なお、この検索表は便宜的なものであり、必ずしも属の表徴にのみ基づいているわけではないことを先にお断りしておきます。
なお、WEB図鑑の補足も兼ねて、渡辺(2011, 2013)を併せて活用ください。
[日本産の属への検索表]
(琉球以北の地域)
1.体色は明るい黄色で、腹部と胸部に黒色の紋を持つ。温暖な地域に多い。
・・・Xanthopimpla
‐.体色は黒色か茶褐色。あるいは腹部が赤褐色を帯びる。
・・・2
2.体は強いツヤを持つ。付節爪の付け根に明瞭な長い剛毛を持つ。
・・・Theronia
‐.体は強いツヤは持たず、あっても鈍いツヤ程度。付節爪の基部方は拡大した、幅の広い付属歯を持ち、上記のような剛毛は欠く。
・・・3
3.産卵管の先端は著しく下方に曲がる。♂の顔面は黄色。
・・・Aphectis
‐.産卵管の先端は直線状。♂の顔面は黒色。
・・・4
4.複眼の内縁は触角挿入孔付近で深い切れ込みを持つ。
・・・Itoplectis
‐.複眼の内縁は直線状で、切れ込みはあっても不明瞭。
・・・Pimpla
(琉球)
1.体色は明るい黄色で、腹部と胸部に黒色の紋を持ち、腹部後縁にそった黒色帯は持たない。また、黒色紋を持たない場合、胸部および腹部に黒色部は一切無い。
・・・Xanthopimpla
‐.上記の組み合わせが当てはまらない。
・・・2
2.翅の先端は曇る。体は中型~やや大型で時に20mmに達する。体色は黄褐色で、黒色の紋と帯を持つ。体のツヤはそこまで強くない。
・・・Echthromorpha
‐.羽は縁に沿って僅かに曇ることはあっても明瞭に広く曇ることは無い。体色は黒色が優先するか、黄褐色に茶色のまだらを持つ。後者の場合、体のツヤは強い。
・・・3
3.体は強いツヤを持つ。付節爪の付け根に明瞭な長い剛毛を持つ。
・・・Theronia
‐.体は強いツヤは持たず、あっても鈍いツヤ程度。付節爪の基部方は拡大した、幅の広い付属歯を持ち、上記のような剛毛は欠く。
・・・4
4.複眼の内縁は触角挿入孔付近で深い切れ込みを持つ。
・・・Itoplectis
‐.複眼の内縁は直線状で、切れ込みはあっても不明瞭。
・・・Pimpla
(注意)PimplaはCoccygomimusとして扱われたことがあり、その時代は現在のEphialtesに対しPimplaの名称があてられていました。
同定する上でよくある間違いはItoplectisとPimplaを混同している例と、Pimplaの一部の種で誤同定が生じていることです。Xanthopimplaもしばしば誤同定がありますが、下記の写真の確認ポイントを見れば正確に同定できる(と思われます)。
下記の写真掲載種おいて、よく似た種の同定ポイントを紹介します。
1.シロワヒラタヒメバチとチビキアシヒラタヒメバチ
シロワでは前胸背板背方後角(肩板の前方)に黄白色の紋を持ちますが、チビキアシではありません。また、後脚脛節のバンドが、シロワの方がくっきりと出ます。シロワは今のところ北海道でしか確認できておらず、本州以南の記録は誤同定の可能性が高いです。いずれにせよ、シロワは寒冷地に分布が偏ります。
2.シロモンヒラタヒメバチとミヤマシロモンヒラタヒメバチ
♀では後脚転節の色彩(シロモンは白色、ミヤマシロモンは黒色もしくは赤褐色)。♂ではミヤマシロモンの小盾板は黄色の紋を持つ点で識別できます。シロモンは平地から山地に広く見られますが、ミヤマシロモンは一般により山地性です。
3.全身が黒色のPimpla
頭部、中体節、後体節、後脚の大半が黒色の種、クロフシ、マイマイ、イチモンジ、コクロ(P. acutula)の4種は下記の検索表で識別できます。イチモンジは水田など、湿地や草地の周辺、クロフシ、マイマイは主に森林、コクロは寒冷地の森林で見られますが、クロフシとマイマイは時に広くさまざまな環境で得られます。
[日本産の体が黒いPimplaの検索表]
1.♀
・・・2
-.♂
・・・5
2.小盾板は密に点刻される.後体節背板は密に点刻され,後縁はマット状.中胸側板は密な点刻に覆われる.後体節第1背板は側方から見て,多少とも一様に隆起する.
・・・イチモンジヒラタヒメバチ P. aethiops Curtis, 1828
-.小盾板はやや疎らに点刻される.後体節背板は密に点刻されるが,後縁は多少とも無点刻の領域を有し,光沢を有するかサメ肌状.中胸側板はやや密な点刻に覆われる
・・・3
3.前脚と中脚は基節を除いて広く黄褐色。産卵鞘は後脚脛節よりも若干長い。体長はたいてい10 mm以下。主に北方の寒冷地にのみ産し、数は少ない。
・・・コクロヒラタヒメバチ P. acutula (Momoi, 1973)
-.前脚と中脚は小さな黄色紋を除いて広く黒褐色~黒色。産卵鞘は後脚脛節よりも若干短い。体長はたいてい10 mm以上。日本本土部のほぼ全域に産し、普通に見られる。
・・・4
4.前翅の基部は黄色.後体節第5背板中央は縁が明瞭な点刻を伴う.側板溝はmesopleural fovaeより下方で12~13本の横隆起を有する.顔面と前伸腹節の毛は大抵,白色ないし金色で,褐色ではない.
・・・マイマイヒラタヒメバチ P. luctuosa Smith, 1874
-.前翅の基部は暗褐色~黒色.後体節第5背板中央は粗く,浅い点刻を伴い,縁は不明瞭で,間の領域はマット状,細かな横皺で彫刻される.側板溝はmesopleural fovaeより下方で15~20本の横隆起を有する.顔面と前伸腹節の毛は大抵,黒色ないし黒褐色.
・・・クロフシヒラタヒメバチ P. pluto Ashmead, 1906
5.触角鞭節は他と明らかに異なる線状感覚器を欠く.やや小型.
・・・コクロヒラタヒメバチ P. acutula (Momoi, 1973)
-.触角鞭節は少なくとも第6~7節に他と明らかに異なる線状感覚器を有する.やや小型~大型.
・・・6
6.触角鞭節は第6節と第7節のみ線状感覚器を有する.
・・・クロフシヒラタヒメバチ P. pluto Ashmead, 1906
-.触角鞭節は少なくとも第6~9節に線状感覚器を有する.
・・・7
7.肩板と,前翅基部の一部は黄色.小盾板は黄色部を有する.微毛は白色ないし褐色.小腮ひげは黒色.
・・・マイマイヒラタヒメバチ P. luctuosa Smith, 1874
-.肩板の後方半分と,前翅基部は褐色.小盾板は黒色.微毛は褐色.小腮ひげは黄色.
・・・イチモンジヒラタヒメバチ P. aethiops Curtis, 1828
下記の写真をクリックすると大きなサイズで見ることができます。
同定のための資料
渡辺恭平(2011)日本産ヒラタヒメバチ族Pimpliniについて.神奈川虫報 (174): 1-19.
渡辺恭平(2013)関東地方と三宅島から見つかったオナガヒラタヒメバチItoplectis cristatae Iwata, 1961(膜翅目,ヒメバチ科).神奈川虫報 (179): 5-8.
渡辺恭平(2019)日本産ヒラタヒメバチ亜科の同定について(追補とまとめ).神奈川虫報, (198): 27-38.