寄生蜂を同定する際の心得
寄生蜂の同定は、チョウや中~大型のガ、甲虫等に比べ格段に難しいです。同定について必要なことを以下に紹介します。とくに、1)と2)はほぼ必須です。
1)標本を作る
何よりも重要です。最近では写真で昆虫を楽しみ、標本は作らない方が増えています。チョウやトンボではそれでも良いかもしれませんが、寄生蜂については撮影した個体を捕獲し、きちんと標本にしておくことが、同定を行う上で、また、種の識別を覚える上でも重要です。写真だけで同定をしていては、たとえ専門家に同定をしてもらっても、決して本人の同定力は高まりません。種名を知りたい場合は、きちんと標本をつくることを心掛けるべきです。(標本の作り方はこちら)
2)双眼実態顕微鏡(ビノキュラー)を持つ
これが無いと、ヒメバチをはじめ多くの寄生蜂はほぼ同定できないと考えて差し支えありません。もしも個人で購入する場合は、顕微鏡自体の性能も重要ですが、照明装置はなるべく良いものを選ぶことをお勧めします。照明装置はLEDのもので、アーム式に光をやわらげるディフューザー(トレーシングペーパーなどで自作できる)をつけたものがよく、レンズの周囲を覆うリング式は表面彫刻が見にくいためおすすめしません。
私はセガワサイエンスコミュニケーション製の照明装置を愛用しています。なお、私が使用している顕微鏡の機種はニコンのSMZ-800という機種です。
3)種まで同定できるとは限らないことを常に念頭におく
寄生蜂においては、未記載種や未記録種がまだまだ多く、採集した種が全て記載された種であるわけではありません。その為に、検索表で種に至っても、 ある程度最近の記載と照合するか、タイプ標本との照合をしない限り種名を確定できないグループがいまだにたくさんいます。その為に、無理して種まで同定をせず、科や属までの同定に留めておくのも無難な方法です(属までの同定でも困難なグループも多いですが…)。
4)文献をよく読む
日本語の文献が殆ど無い分類群も多いので、積極的に英文の論文を読むことによって、新たな世界が見えてきます。本当は、いい図鑑があるのが望ましいのですが、日本においては残念ながら、優れた図鑑や解説が乏しいため、多くは英語の文献が無いと同定できないのが現状です。幸いなことにインターネットを用いればかなりの量、英語の文献であれば収集できますので、これらを駆使して調べてみましょう。
5)多くの標本を集め、観察する
変異の幅がはっきり知られておらず、分布の全容もわかっていない現状では、多くの標本を集め、観察することから、新たな知識が得られます。もしも全然同定が出来ないいう方は、先ずは500頭ほどでよいので、標本を作ってみてください。そして、なんとなく似たような種などを自分なりにグルーピングした上で、文献でわかるやつからはじいてゆくと多少はわかるようになる(かもしれません)。
6)比較標本を集める
図鑑が無い以上、信頼できる同定標本などを観察し、自分で比較用の標本を集める必要があります。普通種でも、ある程度集まると、その種を元に形質の比較が行えるので、文献の理解が数段深まります。管理人はいずれも標本に同定ラベルをつけることを心掛けていますので、管理人同定の標本が収蔵されている機関を利用し、同定された標本をもとに勉強を行うことも、理解を深めるにはよいでしょう。
同定依頼のマナーについては、こちらをご覧ください。