実体顕微鏡用検鏡台の作り方

実体顕微鏡下で標本を観察する場合、コルクやペフ板、発砲スチロールに標本を刺して観察することが一般的ですが、これだと何度も針を抜き差しし、標本が壊れるリスクが高くなるとともに、思い通りの場所に固定することも難しい問題点があります。

 

顕微鏡用検鏡台は、従来いくつかの設計図が出ていますが、現在の市販品などは、台座を除き、概ねLobanov & Kotyurgin (1975) のデザインを踏襲しています。しかしながら、針を刺す台が1か所しかないことと、価格が高いことが課題でした。

 

そこで私(渡辺)は、1000円程度の予算で作成でき、ヒメバチの観察に適した検鏡台を開発しました。この2台座式検鏡台はステージがある程度広く、ワーキングディスタンスが多少とも長い実体顕微鏡に限定されるものの、(自分で言うのもなんですが)圧倒的な使いやすさもあり、国内外で売ってほしいといわれる機会がたびたびありました。

 

この検鏡台は完全に自作であり、改善の余地も多々あるため、売ることは不可能ですが、作り方を紹介することはできますので、ここで説明したいと思います。

 

用意するもの:

(左上から時計回りに)

・ゴム製のすべり止め

→ 椅子や机の足などにつけるもの

・タオル干し用ポールを壁に固定するねじ止め式金具と付属のキャップと小ねじ

・ネジ(狭い箇所の直径7 mm:長さ25 mm:先端の幅広い箇所の長さは4 mm)

→ 細長い箇所の長さは20 mm以上が望ましい。

・ネジにあうナットとワッシャー

・2孔が空いた縦長の金属板(長さ49~50 mm)

・打ち込み式ネジ穴つき杭(上記7 mm径のネジにあうもの)

・ペフ板の切れ端

(写真の他に)

・セロハンテープなどのテープ類と待ち針

(工具)

・ラジオペンチ、金属用やすり(孔を広げる場合)、ドライバー、スパナ

 

全てホームセンターで入手できますが、ゴム製すべり止めは厚みがあるものの方が良く、薄いものだと後で苦労します。また、市販されている金具は大型のものが多いので、なるべく小さいものを組み合わせて作成することが重要です。

検鏡台は3つのユニットを組み合わせて作成します。

1つ目のユニット作成

必ず孔が貫通しているものを選ぶ
必ず孔が貫通しているものを選ぶ
ポール固定用金具のキャップを裏返しにし、間にペフ板をはさみ、ゴム製すべり止めに小ネジで強引につける
ポール固定用金具のキャップを裏返しにし、間にペフ板をはさみ、ゴム製すべり止めに小ネジで強引につける
一つ目のユニット完成(ゴム製すべり止めが薄い場合は、突き出たネジをテープなどで埋める)
一つ目のユニット完成(ゴム製すべり止めが薄い場合は、突き出たネジをテープなどで埋める)

2つ目のユニット作成

チューブはなんでも良いが、写真にある45mm程度のものがおすすめ
チューブはなんでも良いが、写真にある45mm程度のものがおすすめ
適当な位置に孔を2つ、「貫通」させる
適当な位置に孔を2つ、「貫通」させる
ペフ板の細切りを差し込む
ペフ板の細切りを差し込む
今度は標本を刺す台を作る
今度は標本を刺す台を作る
チューブのフタの真ん中に孔をあけ、ペフ板の切れ端を窪みに詰め、孔を通るように中央を待ち針を刺す
チューブのフタの真ん中に孔をあけ、ペフ板の切れ端を窪みに詰め、孔を通るように中央を待ち針を刺す
安定させるためにペフ板のスライスを間に刺して、図のように取り付ける
安定させるためにペフ板のスライスを間に刺して、図のように取り付ける
反対側も同様に
反対側も同様に
針の先端はそのままだと刺さるので、ラジオペンチなどで曲げてしまう。これで2つ目のユニット完成
針の先端はそのままだと刺さるので、ラジオペンチなどで曲げてしまう。これで2つ目のユニット完成

3つめのユニット作成

まずは金属用のやすりで孔を拡張する(適した金具が見つからなかったためやむなく削っている))
まずは金属用のやすりで孔を拡張する(適した金具が見つからなかったためやむなく削っている))
ネジが通るくらいまで孔を広げる(これが不要な金具があるのが理想)
ネジが通るくらいまで孔を広げる(これが不要な金具があるのが理想)
写真のネジは少し短いので、もう少し長いほうがよい。必要に応じてワッシャーを使う。
写真のネジは少し短いので、もう少し長いほうがよい。必要に応じてワッシャーを使う。
杭のネジ穴はこんな感じ
杭のネジ穴はこんな感じ
片方のネジを杭をねじ込む
片方のネジを杭をねじ込む
杭にべたつきにくいテープを巻く(好きなテープでよい)
杭にべたつきにくいテープを巻く(好きなテープでよい)
外側をセロハンテープで巻き、ポール固定用金具の穴にぴったりはまる直径にする。テープの巻く量で固さを調整できる。この箇所を1つ目のユニットに差し込む
外側をセロハンテープで巻き、ポール固定用金具の穴にぴったりはまる直径にする。テープの巻く量で固さを調整できる。この箇所を1つ目のユニットに差し込む
反対側のネジの直径をビニールテープなどで増し、3つ目のユニット完成。これを2つ目のユニット(チューブ)としっかりつなげる
反対側のネジの直径をビニールテープなどで増し、3つ目のユニット完成。これを2つ目のユニット(チューブ)としっかりつなげる
完成した検鏡台(左のもの)。回転させる箇所の強さ(固さ)はセロハンテープで簡単に調整可能
完成した検鏡台(左のもの)。回転させる箇所の強さ(固さ)はセロハンテープで簡単に調整可能

文献

Lobanov A. L. & V. A. Kotyurgin (1975) A manipulator for the examination of Insects under a binocular microscope. Entomological Review, 54: 144-145.