研究していること

博士後期課程での研究テーマ

 

1) 材穿孔性昆虫寄生蜂の産卵寄主特定手法の開発

 

  寄生蜂類は多様な昆虫を寄主とする習性を持つことから害虫の天敵としての利用が研究されています。特に、材穿孔性昆虫寄生蜂は木材を食害するキバチ類やカミキリムシ類に寄生することから、森林害虫の天敵として重要であると考えています。

 食葉性昆虫寄生蜂では、一般的に寄主の同定が容易であるために寄主情報や生態の研究が進んでいます(例えば、Hecek et al. 2013, Kusigemati 1981)。一方で、材穿孔性昆虫寄生蜂は分類が不十分であるのに加え、寄主の特定には材からの割り出しや長期間の飼育実験に頼るしかなく、寄主情報の解明はほとんど進んでいません。そこで、蜂成虫から寄主を特定出来ないかと考え、近年発表された食葉性昆虫寄生蜂の成虫の体内から寄主のDNAを特定するという手法(Rougerie et al. 2011)を参考に、材穿孔性昆虫の寄生蜂でも応用できる手法の開発に取り組んでいます。

 

2)ホソヒメバチ亜科(ハチ目,ヒメバチ科)Cylloceriinaeの分類学的研究


ホソヒメバチ亜科は世界から333種が知られており、アフリカや極地を除く地域に分布しています(Yu et al., 2012)。生態はあまりわかっていませんが、ガガンボに寄生することが知られています(Wahl, 1986)。日本からはわずか22種しか知られていませんが、特にCylloceria属において多くの不明種を含んでいることが分かっています。ガガンボが日本から700種以上記録されていることから、さらに種数が増える可能性もあります。

日本に分布する本亜科の種はほとんどが黒色の体で、種間の形態差もそれほど顕著でないため雌雄の対応付けが難しく、分類は進んでいません。本研究では、まずDNAバーコーディング技術を用いてグルーピングを行い、認識されたクレード内で共通する形態的特徴を見つけることで分類を行います。


3)ヤセバチ科Evaniidaeの分類学的研究


ヤセバチ科はゴキブリの卵鞘に寄生するゴキブリヤセバチの仲間から構成される寄生蜂の一群で、世界から20属と約430種が知られています(Deans, 2005)。寄主となるゴキブリの分布と関係しているため南方で多様性が高く、東南アジアや南アメリカで多くの種が記載されています。また、多くの化石種を含んでおり、古くから生き残っている系統学的にも非常に興味深いグループであると言えます。

 日本からは汎世界種であるゴキブリヤセバチEvania appendigaster 1種のみしか知られていませんが、琉球列島から複数の不明種が得られています。この仲間は、後体節が極めて小さく、前伸腹節の上部に接合する特徴的な形態から科の識別は非常に容易ですが、属や種のレベルでは、日本産種の分類学的研究はほとんど進んでいないと言えます。これらについて近隣国に分布する種と比較をしながら検討を行っています。

 

博士前期課程での研究テーマ

 

1) DNAバーコーディング技術を用いたケンオナガヒメバチ亜科(ハチ目,ヒメバチ科)Acaenitinaeの分類学的研究

 

 寄生蜂の分類は長い間、形態形質に基づいて検討が行われてきました。しかし、ここ15年の間に遺伝子の解析技術が進歩し、分類学にも取り入れられるようになりました。この技術を取り入れる利点として、得られる結果がシンプルであり分かりやすい(形態形質の表現には分類学者の主観が入りやすく、分かりにくい場合がある)、手法がマニュアル化されており昆虫に対する特別な知識がない人でも利用できるといった点があげられます。一方で、専門的な機器が必要であったり、お金がかかるというような欠点もあります。修士論文ではケンオナガヒメバチというヒメバチに焦点を当て、この遺伝子解析と既存のクラシックな分類手法を組み合わせて、分類体系の検証を行っています。

 

 ケンオナガヒメバチ亜科Acaenitinaeは世界から27属約250種が知られており、極地を除く全世界に分布しています(Yu et al., 2012)。木材に穿孔するカミキリムシやゾウムシに寄生する内部寄生性の飼い殺し寄生者である例が知られています(Show et al., 1989)。メスには三角形をした、特徴的な亜生殖板があり、他の亜科との識別は容易ですが、オス(特にColeocentrus属)は他の亜科とのよく似た特徴を持つため、識別は難しいです。体長は1〜3センチ程度と比較的大きいにも関わらず、多くの未記載種や不明種を含み、色彩や生息地で種が分けられている点など、多くの分類学的な問題が残っています。これらの種についてDNAバーコード領域と呼ばれる部分(ミトコンドリアDNA COI領域)を解析し既知種との比較を行うことで、難しかった雌雄の対応付けや、シノニム処理の根拠として利用します。