カギバラバチ科 Trigonalidae Cresson, 1887
主な特徴(Carmean & Kimsey, 1998による)
① メスの触角鞭節中央数節は、外側に白い鱗片あるいは白い剛毛をまばらに有する。
② 大顎は通常幅広く、先端は幾つかの歯を持ち、非対称(Bareogonalosでは左右対称の場合有り)。
③ 各転節は2節に分割され、後脚転節は外見的に3節に分割される(例外あり)。
④ 一部の属では前伸腹節の気門は突出部に覆われる。
特徴的な形態を有する比較的小規模な寄生蜂の一群で、日本からは9種が知られている。日本産の種は時に15 mmに達するエゾマルカギバラバチを除いて体長は通常5~12 mm程度。大抵の種で、♀の腹部先端がかぎ状となっていることから、この和名がついたと思われる。主な形質は上記の通りである。
生態としては、非常にユニークな寄生戦略を有することが知られており、まず母蜂は草食性の鱗翅目昆虫の幼虫やハバチの幼虫が利用する食草に産卵を行い、食草の摂食を介し卵をそれらの幼虫の体内に送り込む。その後、その幼虫に偶然寄生したヒメバチやヤドリバエなどの寄生蜂、寄生蝿に寄生するか、その幼虫を狩りに来たスズメバチなどの捕食性昆虫の幼虫に寄生するとされる。このように極めて特殊な寄生様式(二次寄生)をとるため、メスは非常に多くの卵を保有することが知られており、典型的な小卵多産型の寄生蜂である(下手な玉も数打てば当たる)。しかしながら、生態の記録はごく一部の種のみで、少ないのが現状である。
野外において、成虫は林縁や草地などで得られるが、一部の種を除いて個体数は少ない。関東地方周辺で良く見られる種は下記の4種である。
Orthogonalys elongata Teranishi 1929 ナガハゴロモカギバラバチ
山地の特に沢沿いの植物葉上にしばしば見られる。
Orthogonalys hagoromonis Teranishi 1929 ナミハゴロモカギバラバチ
特に4月~5月にかけて、河川敷の土手など、草地環境で見られる。
Taeniogonalos fasciata (Strand, 1913) キスジセアカカギバラバチ
森林の林縁および林内の吹き溜まりで、植物葉上にしばしば見られる。
Taeniogonalos taihorina (Bischoff, 1914) マダラカギバラバチ
山地の特に沢沿いの植物葉上にしばしば見られる。
国内における分類の研究は幾つかあるが、特にTeranishi (1929)とTsuneki (1991)は重要な文献である(後者は若干入手が難しい)。日本産昆虫総目録はTsuneki (1991)の出版される前に出版されている為、総目録以降に相当な変更と追加が行われてきた。特に重要な文献として、Carmean & Kimsey (1998)による世界のカギバラバチの高次体系の整理は重要である。
日本産種の同定は渡辺・山根(2017)、高橋(2019)で一通り行えるが、高次分類だけでなく、一部の属については国内産種の分類についても課題が存在する。また、ほぼ同じタイミングで出版されたTan et al. (2017)によりマダラカギバラバチの分類については変更があった。詳細は下記備考を参照。
日本産既知種のリスト
渡辺・山根(2017)に準じ、亜科や族は暫定的に認めない体系を採用した。
Bareogonalos Schulz, 1907
Nippogonalos Uchida, 1929
jezoensis (Uchida, 1929) (Nippogonalos) エゾマルカギバラバチ
Jezonogonalos Tsuneki, 1991
marujamae Tsuneki, 1991 マルヤマカギバラバチ
Orthogonalys Schulz, 1905
Satogonalos Teranishi 1931
elongata Teranishi, 1929 ナガハゴロモカギバラバチ
hirasana Teranishi, 1929
debilis Teranishi, 1929
fukuiensis Tsuneki, 1991 フクイハゴロモカギバラバチ
hagoromonis Teranishi, 1929 ナミハゴロモカギバラバチ
Taeniogonalos Schulz, 1906
Labidogonalos Schulz, 1906
PoecilogonalosSchulz, 1906
Lycogastroides Strand, 1912
Lycogonalos Bischoff, 1913
Nanogonalos Schulz, 1906
Taiwanogonalos Tsuneki, 1991
fasciata (Strand, 1913) (Poecilogonalos) キスジセアカカギバラバチ
magnifica (Teranishi, 1929) (Poecilogonalos)
flavoscutellata (Chen, 1949) キモンカギバラバチ
sauteri Bischoff, 1913 ザウターカギバラバチ
pinctipennis Strand, 1914
taihorina (Bischoff, 1914) (Nanogonalos) マダラカギバラバチ
maga (Teranishi, 1929) (Poecilogonalos)
yuasai (Teranishi, 1938) (Poecilogonalos)
claripennis (Tsuneki, 1991) (Taiwanogonalos)
Teranishia Tsuneki, 1991
nipponica Tsuneki, 1991 フタホシカギバラバチ
[備考]
Tan et al. (2017)でマダラカギバラバチT. magaはユアサカギバラバチT. taihorinaのシノニムとなった。ユアサカギバラバチの和名は渡辺・山根(2017)で提唱されたものであり、まだ使用されていないため、従来から方々で使用されてきたマダラカギバラバチの和名をT. taihorinaに用いる。
日本産種の同定および関連文献は以下の文献を参照してください。
渡辺恭平・山根正気,2017.日本産カギバラバチ科についてのメモ.つねきばち (30): 1-26.
Tan, J.-L., C. van Achterberg, Q.-Q. Tan & L.-P. Zhao, 2017. New species of Trigonalyidae (Hymenoptera) from NW China. ZooKeys, (698), 17–58. (http://doi.org/10.3897/zookeys.698.13366)
高橋秀男,2019. キモンカギバラバチについて.つねきばち(34): 19-21.